デザインの先端都市、ニューヨークの起業支援は今
モノづくり起業 推進協議会の米国視察ツアーにライターとして同行した、マーケティングPRプロデューサーの西山 裕子です。2017年4月17日から4月20日まで開催された米国視察ツアーについて、第2弾としてニューヨーク滞在をレポートします。
東海岸のスタートアップ?
今回の米国視察ツアーの主な目的は、4月19日のビジネスコンテストHardware Cup 2017に参加することでしたが(コンテストの結果詳細はレポート第一弾をご覧ください)、 その前に一行はニューヨークを訪れ、現地のスタートアップコミュニティに参加しました。
アメリカのスタートアップというと、西海岸のシリコンバレーが有名で、日本からも多数の団体が視察をしています。しかし最近は東海岸、特にニューヨークが産官学合わせて新産業の創出に力を入れ、成長しています。世界中の観光客をひきつける文化と芸術の街、ニューヨーク。ちょうどイースターの時期で、キリストの復活を祝うパレードやイベントが多数行われていました。
Day1:巨大な施設でワークショップとMeetup
4月17日、ニューヨーク市のロングアイランドにあるNYDesignsを訪問しました。2006年設立で、工場跡地を改装し、デザイン教育やモノづくり企業の活動支援として、3つの機能を提供しています。
- インキュベーション:起業家が最大3年間、オフィスを借り、メンターやアドバイザーに相談ができる
- モノづくりの場(FabLab):5000平方フィートに及ぶ、広く安全な場所で試作品を作ることができる
- コワーキング:年中無休で机や会議室、設備を使うことができる
外観はやや地味ですが、中に入るとアートの意匠が見られ、おしゃれで使いやすい空間が広がっていました。
入居企業とのワークショップ
夕刻より、交流会が始まりました。今回のツアーを企画運営した、モノづくり起業 推進協議会の会長である牧野成将氏より、アメリカと日本のスタートアップ事情、日本のモノづくりの強みなどを説明しました。牧野氏は、世界中のスタートアップに向けて量産化試作をサポートする、京都のMakers Boot Campの代表を務めています。スタートアップは試作品段階では良いものができても、市場に出すための量産化で躓くことがよくあるため、経験豊富な日本のメーカーとつなげて、革新を起こそうと試みています。
今回のツアーに同行した大阪市経済戦略局イノベーション担当課長の柳内忠彦氏からも、「大阪イノベーションハブ(OIH)」をはじめとした大阪市の紹介や、行政としての起業家支援の取り組み活動を説明しました。その後、NYDesignsに入居するアメリカのスタートアップ、ツアーに参加した日本のスタートアップが、それぞれ自社のビジネスを発表し、Meetupで情報交換を進めました。
Day2: 3万5000人が集う、全米最大のスタートアップイベント
翌4月18日、スタートアップの展示会「TECHDAY New York」へ。500以上のスタートアップが出展し、VC・事業会社・メディア・学生などが計3万5000人も来場します。日本から来た3社も参加しています。会場に入るまでに、セキュリティチェックで長い列が作られました。
出展企業は、ソフトウェア、ハードウエア、FinTechなど様々な事業で成功を目指すスタートアップです。ニューヨークにある名門校、コロンビア大学もスポンサーとして参加し、起業家教育プログラムの説明をしていました。ニューヨーク市が提供する、女性向けIT教育プログラムの出展もあり、大学や行政の支援も多く見られました。
現地事情をヒアリング
東海岸のスタートアップをより理解するために、現地に住むお二人に詳しい話をお聞きしました。ニューヨークと日本のスタートアップをつなぐRising Startupsの創業者である奥西正人氏は、20年以上アメリカに住み、東海岸で最大規模の日本人スタートアップコミュニティでイベントを開催しています。奥西氏から、前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏が、Made in NYというロゴを、決められた条件を満たすと(例:製品の75%以上がニューヨーク市で製造された等)使えるという仕組みを構築し、スタートアップもニューヨークブランドを活かせるようにしたことや、現市長のビル・デブラシオ氏がDigital.NYCという技術系の人材を採用できるサイトを作り、「.nyc」というドメインをブランド化していることなどをお聞きました。コワーキングスペースも増え、スタートアップも大きな企業も気軽に使い、コラボレーションをしているそうです。こちらでは、スタートアップの初期段階でも、100万ドル(約1.1億円)程度の投資を得ることはよくあり、今後もニューヨークでIT産業が盛り上がることが期待されています。
次は、今回のツアーの企画運営者でもある、FabFoundryの関信浩氏です。関氏は、ピッツバーグにあるカーネギーメロン大学のビジネススクールを卒業し、シックス・アパート株式会社のCEOを務め、シリコンバレーやニューヨークのスタートアップ企業の役員になるなど、アメリカの起業事情に詳しい方です。
「アメリカ人は創造性が高く画期的なものを作るのですが、製造過程では日本人がやるとうまくいきます。特にアメリカは経験者が少なく、経験豊富な技術者の人件費が非常に高いので、アイデアを製品化し、量産する際の生産管理をする役割を日本人が担えば、効率的に新産業の創出ができると思います」。
「シリコンバレーでは、ハードウエアのスタートアップなど、私たちが知る段階ですでに大きな規模になっています。が、ニューヨークなら、小さいコミュニティなので、数人の創業者が会社を始めた時に見つけるのが簡単です。かつてニューヨークは製造業が盛んで、現在もプロダクトデザインやファッションに強い地域であり、モノづくりに強みがあります」。
ホットでファッショナブルなコワーキングWeWork
その後、ブルックリンにあるコワーキングスペース、WeWork Dumbo Heightsを訪問し、協議会が共催するMonozukuri Demo Dayに参加しました。WeWorkは、スタートアップが働きやすいコワーキングスペースを提供する会社ですが、WeWork自体が成長企業として注目されています。2017年3月には日本のソフトバンクが3億ドルを出資し、WeWorkの企業価値は2兆円にも上るといわれています。ほぼ毎月のように新しいスペースをオープンさせ、東京や香港にも進出しています。
ニューヨーク滞在中、勢いある多くのスタートアップ企業、その成長を応援する「場」や「人」のコラボレーションが見られました。日本でも起業促進の必要性が言われていますが、ここまでの場所があるでしょうか?スタートアップ500社、それに関心を持つ人が3万5000人も集まるでしょうか。
アイデア段階、テスト販売、多額の資金調達で量産化など、アメリカのスタートアップの状況も様々ですが、新たな産業創出に賭け、企業、学校、行政が共同で取り組み、VCやエンジェル投資家が資金提供をする…。その環境には、圧倒されるものがありました。